矯正中に歯がしみるのはなぜ?

矯正治療中は、歯が動くときや食事の際に痛みを感じることがあります。それだけでなく、冷たい飲み物を飲んだ時や歯磨きの時に歯がしみることはありませんか? その症状は、知覚過敏によるものかもしれません。今回は、矯正治療中に知覚過敏が起こる原因と対策について解説します。
知覚過敏と矯正中の痛みはどう違う?
冷たい飲み物を口に含んだときや、歯磨き中に「ズキッ」「キーン」とした痛みを感じることはありませんか。これは知覚過敏と呼ばれる症状で、虫歯ではないにもかかわらず、外部からの刺激によって歯がしみる状態です。冷たい飲み物だけでなく、熱いものや甘いもの、酸っぱいもの、歯ブラシの毛先の刺激でも歯がしみることがあります。
歯の表面は硬いエナメル質で覆われ、内部の象牙質を保護しています。象牙質には神経につながる微細な管(象牙細管)があり、外部からの刺激はこの管を通じて神経に伝わります。通常はエナメル質が刺激を遮断しますが、摩耗や歯ぐきの下がりによって象牙質が露出すると、冷気や飲食物の刺激が直接神経に届き、痛みを感じるようになります。特に歯の根元部分は薄いセメント質で覆われているため、象牙質が露出しやすく、知覚過敏の症状が起こりやすくなります。
一方、矯正治療中の痛みは歯の移動によって起こるもので、歯を支える組織や神経にかかる力が原因です。歯が動くことで歯周組織が圧迫されると、一時的に痛みや違和感を感じることがあります。知覚過敏では刺激が加わったときに鋭く感じるのに対し、治療による痛みは歯が動いている間ずっと感じることがある、という違いがあります。
治療中は知覚過敏になりやすい?
矯正治療では歯を理想的な位置に移動させる過程で、知覚過敏が生じることがあります。主な要因は以下の4つです。
理由1:歯の移動による一時的な隙間の発生
歯列矯正では、歯根に力を加えて骨の吸収と再生を繰り返しながら歯を動かします。この過程で、歯と歯ぐきの間に一時的に隙間が生じることがあります。隙間から刺激が象牙質に伝わりやすくなるため、歯がしみる感覚が起こります。初期段階で症状が出やすいものの、歯の動きが安定すると次第に軽減するケースが多いです。
理由2:IPR(歯の削合処置)による影響
矯正治療計画に沿って、歯の間のエナメル質をわずかに削るIPRを行うことがあります。削合(歯科において歯の一部を削って形を整える処置)は象牙質に達しないため直接の痛みは少ないですが、歯に対する刺激として一時的に知覚過敏に似た症状が出ることがあります。
理由3:歯肉退縮による象牙質露出
歯肉退縮とは、歯ぐきが下がって歯の根元が露出してしまう状態のことです。歯ぐきが健康な位置よりも下がることで、知覚過敏を引き起こします。矯正中は歯肉が下がり、象牙質が露出することがあります。主な原因は、強いブラッシングや装置まわりの磨き残しによる歯周病、大きな歯の移動などです。移動量が大きいと骨の吸収や再生の遅れが起こり、歯ぐきが下がりやすくなります。
理由4:酸による歯質の影響
磨き残しのプラークが長時間口腔内に残ると、細菌が酸を生成し、歯の表面を溶かして知覚過敏を誘発します。酸によるダメージは知覚過敏だけでなく、虫歯のリスクも高めます。
症状が出たときの対処方法
矯正中の知覚過敏の症状は一時的で、時間とともに落ち着くことが多いです。また、歯の表面は唾液による再石灰化で修復されるため、軽度の痛みであれば自然に改善するケースもあります。
日々のブラッシング方法の見直し
- 磨き方を工夫する
強い力でゴシゴシ磨きすぎると歯や歯ぐきを傷つけ、しみやすさを悪化させることがあります。優しく一本ずつ丁寧に磨くことが大切です。
- 適した歯ブラシを選ぶ
やわらかめの歯ブラシを使うことで、歯や歯ぐきへの刺激を減らし、磨きすぎによる知覚過敏を防ぎます。また、歯ブラシのヘッドの大きさや形状を自分の口に合ったものにすることで、磨き残しを防ぎやすくなります。
- 専門家の指導を受ける
歯科医師や歯科衛生士にブラッシングの方法を確認してもらうと、自分では気づきにくい癖や磨き残しを改善できます。定期的にチェックを受けることで、正しい習慣を身につけ、知覚過敏の予防につなげられます。
知覚過敏用歯磨剤の活用
知覚過敏の症状を和らげるためには、専用の歯磨剤を使うのがおすすめです。主な成分には以下のようなものがあります。
- 硝酸カリウム
歯の神経に刺激が伝わるのを抑える作用があり、冷たいものや熱いものを口にしたときの痛みを和らげます。継続的に使用することで、知覚過敏による不快感の軽減が期待できます。
- 乳酸アルミニウム
象牙細管を覆って保護することで、外部からの刺激が神経に届きにくくなります。これにより歯がしみやすい状態を防ぎ、快適な日常生活をサポートします。
- 高濃度フッ素
歯の表面を強化して、酸や摩耗によるダメージを受けにくくします。その結果、知覚過敏の原因となる歯質の弱さを改善し、痛みを感じにくくします。
また、注意したいのが研磨剤の有無です。特にホワイトニング用の歯磨き粉には研磨剤が多く含まれることがあり、知覚過敏の症状を悪化させることがあります。そのため、研磨剤無配合の歯磨剤を選ぶことも重要なポイントの一つです。
歯科医院での専門的な処置
ホームケアや症状の様子見だけでは改善が見られない場合は、歯科医院での専門的な処置を受けることが推奨されます。定期的に行うことで効果が長続きしやすく、ホームケアと併用することでより早く症状の改善が期待できます。
- 知覚過敏用の塗布薬
歯の神経に伝わる刺激を和らげる成分が含まれており、冷たいものや熱いもの、甘いものを口にしたときに感じる痛みを軽減します。歯の表面や象牙細管に直接作用するため、短期間でも効果を実感しやすい点が特徴です。
- 歯の根元部分へのコーティング
歯の根元や露出した象牙質を保護するコーティング剤を塗布することで、外部からの刺激を遮断し、痛みを防ぎます。コーティングは歯の表面にバリアを作るような働きを持ち、知覚過敏によるしみやすさを抑えながら、日々のブラッシングや飲食の際の不快感を軽減する効果があります。
まとめ
歯の移動や装置の影響により、矯正治療中には知覚過敏が起こることがあります。多くの場合は一時的な症状で、セルフケアの見直しや必要に応じた歯科医院での専門的な処置を組み合わせることで、痛みを和らげながら治療を続けることができます。症状が長引く場合は無理をせず、歯科医院へ相談することをおすすめします。