抜歯後にみられるドライソケット
矯正治療では、歯並びや噛み合わせを整えるために、あごのスペースを確保する目的で治療のために健康な歯を抜く処置である「便宜抜歯」が行われることがあります。特に歯が大きい方やあごが小さい方、歯が重なり合って生えている「叢生(そうせい)」のケースなどでは、抜歯によるスペース確保が必要となることがあります。しかし、抜歯には一定のリスクも伴います。その一つが「ドライソケット(抜歯窩乾燥症)」です。今回は、矯正治療に関連して抜歯を受ける患者様に向けて、ドライソケットについて詳しく解説いたします。
抜歯後に起こる痛みと「ドライソケット」
抜歯後は、通常2~3日ほど軽い痛みや腫れが生じ、その後徐々に落ち着いていきます。痛み止めの服用でコントロールできる程度が一般的です。しかし、抜歯後3~5日を過ぎても痛みが引かず、むしろ悪化しているような場合、「ドライソケット」の可能性が考えられます。
ドライソケットとはどのような状態?
正式にはドライソケットは「抜歯窩乾燥症」と呼ばれ、抜歯後の傷口が適切に治癒せず、骨が露出してしまう状態です。通常、歯を抜いた後には傷口に血がたまり、血餅(けっぺい)と呼ばれるかさぶたのようなものができます。この血餅が保護膜の役割を果たし、抜歯後の傷口を外部刺激から守り、自然な治癒を促します。何らかの原因でこの血餅が剥がれたり、うまく形成されなかったりすると、歯槽骨(歯を支えていた骨)がむき出しとなり、強い痛みや不快感が生じやすくなります。
主な症状
ドライソケットは、通常の抜歯後の経過とは異なり、以下のような特徴があります。このような症状がみられたら自己判断せず、速やかに歯科医院を受診してください。
- 抜歯後2〜4日頃に再度ズキズキとした強い痛みが出現し、痛み止めが効きづらい
- 抜歯部位に触れると鋭い痛みが走る
- 口臭や不快な味がする(感染を伴うこともある)
- 抜歯窩が白く見え、骨が露出している
- 周囲の歯やこめかみ、耳のあたりにまで痛みが広がることもある
ドライソケットが起こる原因
過度なうがいや口すすぎ
抜歯後24時間以内に強いうがいを繰り返すと、せっかく形成された血餅が洗い流されてしまうことがあります。
喫煙習慣
喫煙は血流を阻害し、血餅の安定形成や傷口の治癒を妨げます。抜歯直後から数日間の禁煙はとても重要です。
舌や指での接触
無意識に傷口を舌で触ったり、指でいじったりすることも血餅の脱落につながります。
抜歯の部位と難易度
下顎の大臼歯、特に親知らずの抜歯では、血液供給が少ないため、上顎の抜歯に比べてドライソケットが起こりやすい傾向があります。
全身状態や基礎疾患
糖尿病や自己免疫疾患など、治癒遅延に影響する疾患をお持ちの方は注意が必要です。
ドライソケットを予防するには?
ドライソケットは完全に防ぐことが難しいケースもありますが、以下のような点を意識することで発生リスクを大きく下げることができます。
抜歯後の注意点(当日〜数日間)
- 抜歯当日は強いうがい・口すすぎをしない
- 舌や指で抜歯部位を触らない
- 指示された通りに止血ガーゼをしっかり咬む
- 激しい運動や長風呂は血流を良くするため、避ける
- 飲酒や喫煙は控える
- 食事はやわらかいものを選び、抜歯部位に刺激を与えないようにする
- 処方された抗菌薬や鎮痛薬は指示通りに服用する
また、血餅がしっかり形成されているかの確認や、経過観察のためにも、抜歯後の再診は欠かさず受けることが大切です。
矯正治療への影響
ドライソケットが起きた場合、抜歯部位の治癒が通常より遅れるため、矯正治療の開始や装置の装着時期に影響を及ぼすことがあります。ただし、多くは局所の消毒処置や投薬治療により数週間で改善し、その後の矯正治療は通常通り再開できます。また、歯科医師が治癒の経過を見ながら矯正治療のタイミングを調整するため、過度に心配する必要はありません。大切なのは、抜歯後の症状を放置せず、気になることがあればすぐに相談することです。
まとめ
矯正治療における抜歯は大切なステップの一つです。そして、その後の適切なケアによって、合併症のリスクは抑えることができます。ドライソケットは誰にでも起こりうるものですが、正しい知識と注意によって予防や早期対応が可能です。痛みが長引く、腫れや違和感が続くなどの異変を感じた時は、早めに受診してください。スカイ&ガーデンデンタルオフィスでは、抜歯後の経過管理も含め、細やかなサポートを行っています。不安な点がありましたら、いつでもお気軽にお声がけください。